ICカードが新宿ジャッキーを殺した

最近の若い筐体はICカードを利用してプレイ中、プレイヤーの名前・リングネームを画面に表示させることができる。
そもそも儂の若い頃は隣り合わせの座席に「対戦。宜しいですか」と一声掛け合意を得てから腰掛け、着装したシルクハットやステッキを片隅に置き、「いざ、尋常にm――
「地名+キャラ名」のリングネームがバーチャ1・2ブームの頃出来たが、時代と共に廃れてしまって、そしてまた一周してぽちぽち見かけるようになる。
ICカード利用のタイトルの登場によってプレイ中、見知らぬ第三者にも己のネーミングセンスが晒されるようになる。正直、今となっては「地名+キャラ名」というリングネームは相当恥ずかしい。まるで、自分がその「地区・使用キャラの代表」であると言っているかのように見られてしまうからだ。ホーム(地元)でのプレイならなおさら。しかも、一度決めた名前を変更できないタイトルもある。これによって「新宿ジャッキー、ジャッキー使ってねえ」「品川ザンギのホーム、町屋じゃん」「○○ってどこ? ああ、あのよく不動産情報誌に最寄り駅○○徒歩10分って書いてもパッとしないから、西日暮里 バス20分 みたいな無理矢理知名度の高い沿線にくっつけられるタイプの――」などのお決まりのツッコミがおきる。
本題。もともと地名+キャラは「誰だか知らないけどどこどこに強い○○使いがいる!」というその場で知り得る限りの断片情報が、パソ通を介した噂話のネットワークから徐々に広がっていってできたモノなので、タイトルごとにコミュニティの形成が反復して身内が広がってきたり、ICカードで普段のプレイから[名前]が分かってしまうと、そういうものはできにくい。だから、自称のみになってしまう。そう、そもそも地名+キャラの通り名は常に他称であるべきだった。例えば地名でもなくても、どこどこに容姿の整った、あるいは規格外に面白い顔の強いウルフ使いが居たとしたら、そいつは「イケメンウルフ」と呼ばれることになる。未知のモノは常にラベリングされる運命なのだ。

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「くッ……師匠。あのラウ使い強いぜ」
「なにぃ、あんな戦法見たことがない」
「一見、自分勝手にやりたいことをやっているようだが、それが全体として完成されているッ・・・!」
「それになんだ!? あのコスチュームは・・・ッ!?」
「[上腕二頭筋]……[大胸筋]……[大殿筋]……ect」
「身体の各部位に名称が。……これは『tagging』ッ・・・!」
「それに・・・! 尻尾が。長いッ・・・!」


「むぅ、あのアプローチは……まだこの世に残っておったとは……」
「なッ!? 知っているのか 解説君ッ!」
「うむ。拙者もアーカイヴなどを参照しただけであるが。なにしろ関わったすべての者の消息が不明ときている……あれは、ゼロ年代半ばに一部の電脳世界で隆起したというわれている邪教……その名を『Web2.0』ッ!!」
「なにぃーッ! じゃああいつは今日から『WEB2.0ラウ』と呼ぼう」
「そうしよう」


「解説君。でかいリュックを背負ったまま立ち止まられると通行人に迷惑だよ」
「すいません」

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そういえば「[地名]+ではたらく+[肩書き]+の日記(ブログ)」も同じだ。社長日記の起源はバーチャ界。
終わった。社長日記は終わった。

註釈

  1. 「新宿ジャッキー」等書かれた部分はすべて「地名+キャラ名」のリングネームへの代替であって、特定プレイヤーを指すものではない(煙草をチャコールの類)。